数学オリンピック戦士、誰がために戦う?

 ケンジがナツキ先輩の実家に遊びに行ったのは何のためだったか。「侘助おじさんの作ったラブマシーンを止めるため?」「キングカズマのOZの戦いを助けるため?」
 違う。「ナツキ先輩の婚約者のフリをして、お婆さんを安心させるため」だ。つまり、本来ケンジには、ラブマシーンを止めてOZの混乱を収束させなければならない理由はない。
 OZの混乱でみんなが困っているのだから、助けようと思うのは当たり前──では、ない。これが先日の「なぜなにカオスフレア」の記事にあった「プレイヤーとキャラクターのモチベーションは違う」という点であり、当事者性があるかないか、という話なのだ。
 OZが混乱しても、困るのはどこかの誰かであり、自分ではない。ストーリーの最終目的が「ラブマシーンを倒し、OZの混乱を終わらせる」ことであったとしても、それをケンジの動機付けとするためには、ケンジ自身の身に何かが起きなければ事件に関わる動機として足りないのである。実際、物語の後半でケンジがラブマシーンを倒そうとするのは「OZの混乱の影響でおばあさんが死んでしまったため」であって、単にOZの混乱を回復したいという正義感に基づく行動ではない。

 サマーウォーズで主人公ケンジの影が今ひとつ薄い理由はここにある。物語の主人公には「物語に積極的に関わる動機」が必要なことがよくわかる。