今は悪魔が微笑む時代なんだ!


 ニコニコ動画にアップされている「AC北斗の拳」の動画の中でも、有数の再生数を誇る名対戦をご紹介しよう。



 この動画の8分過ぎから始まる「KIユダ対QMZジャギ」戦。これはAC北斗の拳の歴史に残る対戦と言っても言いすぎではない。
 AC北斗の拳の対戦に詳しい方にとってはわざわざ言われるまでもないことだと思うので、ここでは北斗の拳は知っているがAC北斗の拳についてはあまりご存知ない方のために、ちょっと説明したいと思う。

 中野TRFとは、中野にあるゲームセンター「中野東京ランキングファイターズ」の略称で、AC北斗の拳に関してはアルカディア主催の全国格闘ゲーム大会「闘劇」に何人もの本戦出場者を輩出する修羅の国だ。そこで12/3に行われた大会の一幕である。
 以前、AC北斗の拳のトキのメチャクチャさについてはちょっと語ったことがあるが、ジャギもまたメチャクチャなキャラである。ただし、トキとは逆の意味で。
 ニコニコ大百科から引用しよう。


ジャギ
 北斗の三男。このゲーム最弱キャラ。火力低い、スキが大きい、技のクセが強い、設置特化キャラのはずなのに設置技はユダより弱い、と散々なキャラ。ただしそれは世紀末スポーツアクションゲームを基準にした場合であり、発生0F+2Fの「北斗羅漢撃」など普通の他の格ゲーでは厨技と呼ばれてもおかしくない程の高性能技を兼ね備えたキャラである。要するに他がぶっ壊れすぎててあおりを食らっているだけ。人呼んで「格ゲーなら強い男」
 なお原作再現度はピカイチ。シンのみに使える「今は悪魔が微笑む時代なんだ!」や、三択で実際に名前を聞く「俺の名を言ってみろ!」などネタには事欠かない。
 有名なプレイヤーは魔法戦士こと「QMZ」。彼の操るジャギはジャギではない。半端な人間が挑むと確実に消毒される。半端じゃない人間でも被害者多数。それ以外には「禅」「みそら」「マイケル」「ヅャギ」など。ジャギ使いで結成されるアイドルプロダクション「ジャギーズ」もよろしく!


 ちなみにユダはこうだ。

 
ユダ
 南斗紅鶴拳伝承者。二人の部下(援護キャラ、ストライカー)を持ち、設置技を軸に戦っていく上級者向けキャラ。部下を使った非常にいやらしい攻撃が得意。技はダムを決壊させたり、鏡を叩き割ったりなど原作を踏襲しつつも変なものが多い。だが崩しではチートダムに代表される数多くのガード不能(困難)連携を持ち、火力はキモズミなどの即死コンボによりトップクラス、星取り能力も悪くない上一撃必殺技「血粧嘴」も非常に高性能。適当に出しても判定・発生共に優れたクソ強いバニを持つ上、守りでは唯一蓄積バグが発生しない上「ダム決壊」やガーキャンとしても使える「俺を利用したのか〜!!」が強力な切り返し手段として機能。地雷をあらかじめ設置しておけば相手の行動を大幅に制限できる。
 よくユダ単体は弱いと言われるがDAICHI曰く「バニや性能の高い通常技を持っているのでむしろ強い方」とのこと。攻守共に高いレベルのため北斗の拳における理論値最強キャラと言われている。
 ただしあくまで理論上であり、使いこなすには非常に高いアドリブ力やコンボ精度が求められる上、ゲージ管理が他より忙しい、気絶値が低いため一度押し込まれると一気に崩される、起き上がり時、相手と反対の方向を向いてしまうバグがある等の欠点から並みの修羅ではその性能を引き出すことができない。家庭用では一部の技性能が違うため練習できず、余計にそれに拍車をかける結果となっている。
 有名プレイヤーは「ワイル」「White」「DAICHI」「空飛ぶ妖星」など。あと「K.I」もサブ筆頭としてユダを使う。

 

 この二人の戦いは「ユダ:ジャギ 9.9:0.1」、そもそもジャギを使うこと自体が「選んだ瞬間相手に勝ちをプレゼントする舐めプレイ」とまで言われる絶望的な組み合わせなのだが……。


 結果はご覧の通り。


 この試合が大会準決勝であることからもわかるとおり、KI氏は決して弱いプレイヤーではなくその正反対で、「精密KI械」の異名を取る全一(全国ランキング一位)クラス、闘劇08では優勝を決めたトッププレイヤーである。それをジャギで撃砕したQMZ氏は恐るべしというほかない。


 AC北斗の拳のことを知らないで動画を見ていると、このジャギのどこが凄いのか今ひとつわかりにくいかもしれない。2タテのストレート勝ちとはいえ、一見するとジャギもかなりのダメージを受けているし、敵の攻撃を食らっている場面も結構ある。
 が、AC北斗の拳を知っていると「アストロン」と異名を取るQMZ氏の防御の固さに戦慄する。上下前後に振られるユダの攻撃をほぼ完全にしのぎきっている。ダメージを食らっているように見えるのは「食らい逃げ」と呼ばれる「ガードするとより酷いダメージを受ける場面」でわざと攻撃を受けることでダメージを減らすテクニックである。何しろ、ジャギにとってはユダの攻撃のほとんど(特にゲージの貯まった試合後半)が一発カスったらしなやすであり(酷い時はガードしてすら)、1ミス即死も十分ありうる状況なのだ。
 さらに2ラウンド目の最後。ユダの体力ゲージはほとんど減っていないのに、いきなり負けている。これは一撃必殺技というAC北斗の拳独特のシステムで、どれだけ体力ゲージが残っていても、この技を食らうと一撃で死んでしまう。
 だったら最初からその技だけ狙っていれば……とは、残念ながらいかない。一撃必殺技は死兆星ゲージ(体力ゲージ下に見える青いゲージ)がゼロになっている=死兆星が見えている状態でなければ発動できない(ゲージは特殊な技を当てないと減らせない)。
 ここで最後の投げ返しの場面を見てみると、実はこの時点では死兆星ゲージがまだ残っているのがわかる。その後のコンボで死兆星ゲージを減らした上で一撃必殺技を当てている。つまり(当然だが)まぐれ当たりなどではなく、確実に計算した上でコンボを入れているのだ。

 まさに修羅と修羅の戦い。この一戦だけでコメントの半分以上が消費されていることからも、この勝負の物凄さがわかるはずだ。
 QMZ氏はこれだけでなく、なんと闘劇決勝リーグにただ一人、ジャギ使いとして名を連ねている。その応援動画がこれだ。



「今は悪魔(=トキ)が微笑む時代なんだ!」


「バカめ! 勝てばいいんだ何を使おうが!(ジャギを使おうが)」


「己の無力さを思い知らせてやる!」(常人なら思い知らされるのはジャギの方)