空を飛ぶ

Role&Roll Vol.75


 今週のロール&ロールにもう一箇所ツッコミを入れておこう。「深淵」の記事である。
 まず、該当箇所を抜粋させてもらう。


(前略)魔族の中には人の子を運んで空を飛べるものもいる。状況次第では、雷鳴の猟犬スパンダルキーや天の猟犬、雪狼などに騎乗するという事態も有り得るに違いない。
 こうした「飛行するキャラクター」は、容易に苦難から脱出し、あるいは距離を越えていくことができるため、閉鎖空間を前提としたシナリオを容易に崩壊せしめる。
 では、どのようにするべきか?


 ふむふむ。それで?



1.シーンを分ける

 (要約)空を飛ぶキャラクターは他の登場シーン間をすばやく移動できる。


2.航空戦的な優位

 (要約)空を飛んでいるキャラクターは戦闘時に有利である。


 ……は? いやいやいや、おかしくない? 直前の命題は「空を飛ぶキャラクターは閉鎖空間を前提としたシナリオを崩壊させてしまうから、それを防ぐにはどうしたらいいか」だよね? それでなんでシーン間を移動できるとか戦闘に有利っていう答えになるんだ? 全然答えになってないんだけど……。


 ちなみに、登場判定を持つFEAR型のゲームにおいてはこの類の事情で困ることはまずない。処理は簡単だ。
 要するに「空を飛べるキャラクターは《飛行状態》というステータスが追加されるだけ」という処理を行うことが多い。その効果は「戦闘時に《封鎖》の効果を受けない(簡単にいうと、接敵していても自由に戦闘エリア内を移動できる)」というだけで、例えばシーンの登場や退場にルール上の影響を与えるケースは稀である。つまり空を飛んでいようがロボットに乗っていようが潜水艦に乗っていようが瞬間移動ができようが、登場する対象はあくまでも「あるシーン」であり、シーンの中で移動することは自由だがシーンへの登退場は他のキャラクターと同じ扱いとなる。
 この記事で述べられている「閉鎖空間を前提としたシナリオ」というのがどういうのかわからないが(そもそも空を飛べないダンジョンシナリオなどは飛べようが飛べまいが関係ないはず)、恐らく洋館もののような「飛行以外のあらゆる手段での移動が不可能な状況」のようなクローズドサークルを指しているのだと思われる。
 登場判定を持つゲームの場合、そもそも館外への登場判定を禁止してしまえばいい。そういうシナリオで館の外がシーンの舞台となることも考えづらいが……。もし、シーン中の行動として閉鎖空間から出ようとしたなら「では君のPCはシーンから退場した」とだけ告げればよい。シーンへの登退場の条件の指定はGMの権限の範囲内である。退場したからといって別にそのPCが館の外に出られたわけではない。
 で、プレイヤーから「俺のPCは空飛べるのになんでここから逃げられないの?」という質問が出たら「それは自由に演出していいですよ」といえばいい(笑)。GMにしてみれば、PCが空を飛ぶこと自体は禁止していない。演出上飛びながらシーンに登場しようが飛んで退場しようが自由だ。ルール上の効果がないだけである。演出上の理由はプレイヤーが思いつく限り無数に設定しうる。スパンダルキーが怪我をしたとか魔力が足りないとか、なんらかの理由で風虎の魔族に声が届かない状態になっているとか、それっぽい理由がつけばなんでもいい。それらもまた演出上の意味しかなくルールとしての効果はないとすればいい。
 そもそも閉鎖空間がそのシナリオの肝であるなら、アクトトレーラーもしくはハンドアウトで「閉じ込められる」ことはあらかじめ予告されているはずなので、プレイヤーがそれに異を唱えることは考えづらい(言われたら一言「アクトトレーラーをお読みください」と答えればいい)。


 FEAR型のTRPGの便利なところの一つに、演出とルール上の効果を分けられる、というのがある。演出上では神を名乗ろうが最強の騎士を名乗ろうが、皇帝を名乗ろうが(ハンドアウトの指示に従う限り)自由だ(「くいすた」の高見先生がこれを得意としている)。
 ただし、それによってルール上有利な効果を受けてはいけない。神であってもゴブリンに殺されるし、最強の騎士であっても山賊に負けるし、皇帝であっても無一文だったら宿から叩きだされる。
 私が今まで見た中で度肝を抜かれた演出は「最新型のサイバーウェア相当の『闘気』を纏ったキャラクター」という演出だった。闘気のどこがサイバーウェアなんだよ! と突っ込みたかったが、なぜかこの「闘気」は電磁波妨害装置で壊れ……じゃなくて力を失ったり、赤外線センサーで探知すると「まるでサイバーウェアのような闘気を纏っている」ことが一目瞭然だったりする(本来赤外線センサーに闘気は映らないが、ルール上はあくまでもサイバーウェアなので「センサーに映る」のだ)。
 演出とルール上の効果を分けることによって、PCの表現の幅が増すし、プレイヤーは自分のPCに「何ができて何ができないか」をはっきりとさせることができる。
「空を飛ぶ能力」はGMの想定外の事態を引き起こすバグ能力になりがちなので、「飛んでもいいけどルール上の効果はないよ」とするのが一番シンプルだし「今回のシナリオでは飛べませんよ!」と言われるよりプレイヤーも納得がいくはずだ。


 最初の命題に戻ると、空を飛ぶ能力に関する解説とはこういうものになるのではないかと思うのだが……。