二つの巨星(前編)

 少し前、ちょうど今年の初め頃の話になりますが、私が「しばらくTRPGに関する話は自粛する」と書いたのを覚えている方はいるでしょうか。


 私の書いたエントリにちょっとした反応があり、それについてある人と話をしていた時のことです。
「このサイトを見るといいよ」と、その人は言いました。
「君の取り挙げたテーマについて一番まとまってるのはこのサイトじゃないかな」


 私はそのサイトを見て驚きました。そこでは私が触れたテーマのみならず、TRPGに関する様々なテーマについて、私などより遥かに広範な知識と、豊富な経験に基づいて考察を加えていたサイトだったからです。
 しかも、そのサイトは説明に難しいカタカナ用語やTRPG業界でしか通じないわかりにくい用語を使うことを避け、できるだけ誰にでもわかりやすいように平易な言葉を使いながら、考察の内容そのものは非常に深いものでした。


 一読して、私は当初の反応に反論したり、再説明を加えたりする気力が消え失せました(*1)。私がいくら稚拙な考察をしたところで、その域には到底及ばない。当初私の意見とその意見はまったく同じではありませんでしたが、エントリを読み進めるうちに、私は深く賛同するようになっていました。そこに私が付け加えるべきことは一行もなく、また削除すべきことも修正すべきことも一つも思いつかなかったのです。


「私が何をどう書いても、これには及ばない」


 ペンを持つ方ならお分かりいただけるかもしれませんが、いわばそれは「完敗のショック」とでもいうべきものでした。一時的に頭の中が真っ白になってしまったのです。それで私は、しばらく筆を休めることにしました。


 もったいぶった言い方はここまでにしましょう。そのサイトとはここのことです。


xenothの日記


 そして、3ヶ月以上前の話を今さら蒸し返した理由は、Xenothさんの3月16日のエントリに心打たれるものがあったからです。
 本当は、こういった文章の一部だけを抜き出すのは、適当ではないかもしれません。抜き出すことで本人の意図とは異なる形で言葉を取り挙げてしまう可能性があるからです。しかし、私の感じたことの片鱗なりお伝えするため、ここにごく一部を抜粋します。可能ならば、Xenothさんの原文を全てお読みいただくことを強く強くお勧めします。


遊ぼう。力のかぎり


     ◇


時折、ヒーローが世界を救うタイプのストーリーや、そうしたTRPGについて、幼稚だという批判があります。現実は、もっとシビアで、つらいものだ、という意見があります。

もちろん、TRPGのセッションは、現実に比べれば単純です(当たり前だ)。
ですが「脳天気でヒーローが世界を救うお話」が単純とすれば、「悪意に満ちた悲劇的なお話」も単純なのです。それらは現実のどこをどう切り取るかの差でしかありません。
「極限状況で起きたひどい話」をトリビアにして、人間の汚い、悲しい側面をメインに描いて「これこそが本当のリアル」というのは、単なる錯覚に過ぎません。


(中略)


TRPGに限らず、遊びが遊びであるというのは、この世でもっとも大切なことの一つです。
遊びであるというのは「何かの役に立つことを強制されていない」ということです。
強制されていないからこそ、そこには無限の可能性があるのです。
数学も天文学も電気もコンピュータも、最初は何の役に立つことも期待されていない、ただの遊びでした。それらが世界を変えたことは言うまでもないでしょう。

人間だって同じです。
誰にも強制されずに遊ぶことは、まずその遊んだ人間を幸せにします。そして、その幸せが、より大勢の幸せを生むことにつながるとしたら、こんなに素晴らしいことはないでしょう。


     ◇


 日本語でTRPGが遊べるようになってから、もう25年以上が経ちます。しかし、黎明期から今に至るまで、TRPGが存在する「意義」というものについて、これほどわかりやすく簡潔に説明し、明快に肯定する言葉は、ほとんど記憶にありません(他には井上ジュンイチ氏くらいでしょうか)。
 私は、あなたは、何のためにTRPGで遊ぶのか。Xenothさん自身も多様性について述べているように、その答えはプレイヤーの数だけ存在します。Xenothさんの答えとあなたの出した答えが違ったとしても、不思議ではありません。
 しかし、私の知る限りにおいて、Xenothさんの答えは最も素晴らしい答えの一つであると思います。
 

 また、Xenothさんは別の日のエントリでこうも言っています。


ゲームは楽しく遊ぶことに価値があり、意味があります。
他人に迷惑をかけず充実した人生を歩めるというのは、個人にとっても社会にとっても大変に素晴らしく価値があることです。


 だから、遊ぼう。力の限り。


(*1)断るまでもないと思いますが、私のエントリに反応したのがXenothさんだという意味ではありません。たまたま同じテーマを取り挙げたというだけです。Xenothさんの方がずっと前にまとめておられますので、完全な私の下調べ不足です。