FF14の話

 そろそろ時効だろうから書いてしまおう。



 少し前の話である。MMORPG好きの私が、途中まで書きかけていたエントリがある。

ソーシャルゲームスマホというツールで隙間時間を使って遊ぶもの。だから外出が規制され、自宅のPCの前に釘付けにさせられる状況下では、ゲーム内世界を自由に出歩けるMMORPGが、にわかに復権した印象がある」……こんな主旨のエントリである。

 実際、私が遊んでいたFF14もDQXも、ログイン人数は普段より増えていた。では、なぜそのエントリをアップしなかったかというと、FF14で、まさにコロナによるオンラインゲームへの負の影響とでも呼ぶべきものに直撃されてしまったため、ポジティブなエントリをあげる気力が失せてしまったからである。
 結果として、私は当時遊んでいたFF14のキャラを削除する羽目になった。ゲーム内容に飽きたとか、嫌になった訳ではないので、また時折ぽつぽつと遊んではいるが、前とはサーバだけでなくデータセンターも変えている。例えコンテンツファインダーでも、前の知り合いに会わないようにするためだ。キャラクターも前とは似ても似つかぬ外見だ。
 この先は別段ネタバレではないが、愚痴を含む湿っぽい話になるので、苦手な人のために一応折り畳んでおく。




 何が起きたのかといえば「所属していたフリーカンパニーが突如変貌した」という、言ってしまえばよくある話である。

 元々、FF14をやり始めたきっかけについては、ブログに書いていなかった。といっても、大した理由ではない。DQXに関連し、FF14についてブログに書く機会がしばしばあったが、根性版FF14しかやっていないのに、今のFF14についてあれこれ想像で書くのは望ましくない。だから一度だけ実際に体験しておこうと思ったというだけだ。FF11やDQXのように誰かに誘われたわけでもない。
 なので、エンドコンテンツを遊ぶつもりもなく、一通りストーリーを終えたらやめようと考えていた。オフラインゲームと同様、数ヶ月程度。
 それが、たまたま訪れたとある場所(特定防止のため固有名詞は伏せる)で、通りすがりの人にFCに入らないかと誘われたのだ。

 オンラインゲームとはフレンドとの関わりだ。
 数ヶ月で辞めるつもりだった私は、フレンドと遊ぶのが楽しくなり、そのままゲームを続けることにした。
  
 私の所属していたFCは規模は大きくなく、むしろどちらかといえば零細の類だった。所属人数自体は二十名を超えていたが、多くは半引退か、時間帯の違うプレイヤーだった。ログインすると、メンバーリストには誰もいないか、一人か、二人。三人いると「今日は賑やかだな」と感じる。そんな規模だった。
 しばしば一緒になるFCリーダーの口癖は「もうちょっとFCの人数増やした方が良いかな」あるいは「どうやったら人数増えるかな」だった。しかし、言うまでもなく人間関係に正解はないし、友達を増やす効率的な方法なんてものもありはしない。現実にはメンバーの数は大きく増えることも減ることもなかった。
 そして正直に言ってしまえば、私にはそれくらいの規模が居心地が良かった。

 そんな時に、コロナ騒動が起きた。

 冒頭に書いたように、ログイン人数が増え、普段だったらすれ違っていたFCメンバーに出会う機会も多くなった。たまたま新規メンバーや他のFCから移ってきたメンバーもおり、雰囲気も賑やかになったことを、私は喜んでいた。

 しかし、その影響は良い方にばかり出たわけではなかった。
 FCリーダーから見れば、常時数名しかいなかったFCが、一声かければ十数名が動くFCへと変貌を遂げたのだ。
 ある日突然、リーダーはFCの方針の変更をメンバーに告げた。

 当初「メンバーが帰ってくる“家”のような存在でありたい」とリーダーが語っていたFCは、バトル班、ギャザラー班、クラフター班に分けられ、それぞれ責任者が決められ、ギャザラー班とクラフター班にはノルマが課せられた。しかも、ノルマの進捗状況を定例会で報告させる、仕事があっても欠席は許さない、という。古参メンバーの一人は「私は仕事しに来てるんじゃないんですよ!?」と悲鳴を上げながら抜けていった。
 古いメンバーが一人、また一人と抜けても、リーダーは「反対者が出ても改革を断行するのが私の役目」と嘯き、方針を変えなかった。私を誘ってくれた人は、随分前にログインしなくなっていた。
 
 他のオンラインゲームでの経験から、私はこのFCはもう長くはもたないだろうと予測した。
 このFCは、FF11のデュナミスLS(リンクシェル)のように、攻略などの最終目的を達成するために集まった集団ではないし、DQXのチームと違ってチームクエストのようなシステム上の目標も存在しない。こういった集団に厳格なルールを持ち込むには公平性が不可欠だが、このFCには目標がないだけでなく、バトル班にだけノルマが存在しない時点で(そもそもバトルコンテンツの報酬のほとんどは分配不能だ)、公平性にも欠けている。
 FCは程なく崩壊するだろう。それを最後まで見届けるか。それとも今去るか。この時点で、私に与えられた選択肢は二つだった。

 ただ、一つ確かめておきたいことがあった。リーダーの豹変の理由……は、聞いても答えてくれないだろう。別の疑問だ。
 抜けていった古参の一人に、FF14の他にウインタースポーツを趣味にしているメンバーがいた。彼女はスキー中に怪我をし、半年ほどログインできなくなってしまったが、必死にリハビリをしてエオルゼアに戻ってきた。
「FF14のバトルコンテンツが好きだから。いつか昔のようにエンドコンテンツに挑みたい」と。
 彼女もまたFCを抜けていったが、去る直前、リーダーは彼女をバトル班ではなく、クラフター班に割り振っていた。クラフター関連のレベルはほぼゼロなのに、である。
 なぜ彼女をバトル班にしなかったか、という疑問への返答はこうだった。
「事故で手が十分に動かないって聞いたから、好意でクラフター班にしてあげたのに、理解してもらえなかったんですよ」と。

 それを聞いた瞬間「これはまずい」と思った。

 これはもうリーダーの精神性の問題ではなく、FCの価値観の問題である。
 目的を掲げて人を集めたFCなら、その返答は当然だ。エンドコンテンツをクリアする目的で人を集めたのに、機敏に操作できない人を所属させては他のメンバーの迷惑になりかねない。それが所属後の事故であってもだ。
 しかし、このFCはそうではない。通りすがりの気の合うメンバーを集めただけの集団だったはずだ。なのに「バトルがしたい」というメンバーに対して「お前のバトルは共同体に貢献しない」と一方的に宣言して追放したのである(なお、彼女は普通の戦闘を問題なくこなす程度の操作はできていた)。
 例え傍観者の立場を決め込んでいても、この価値観の中に長期間身を置いていては、自分も悪影響を受けかねない。

 私はFCを抜ける覚悟を決めた。

 最後に一つ残ったのが最初の疑問だ。「リーダーは何故突然豹変したのか」。環境が人を変えたのか。別の理由があったのか。答えが得られるとは、私自身も思っていなかったが、意外な場所に答えがあった。

 先の方で述べた「他のFCから移ってきたメンバー」の一人。
 私自身、特に悪いイメージはなかったが、印象に残ったのは最初の自己紹介で「前のFCでサブリーダーをしていた」と強調していたことだ。「リーダーをしていた」と強調するなら分かるが、サブリーダーを強調するプレイヤーには今まで出会ったことがなかった。
 そんな彼女は、FF14の配信をやっているという。良かったら見てね、と言われたその配信は、人気配信という訳でもなく、リアルタイム視聴者は数名、私のように事後に見ている人間も2桁に届くかどうかだった。
 しかし、その動画の一つに配信者とリーダーのやり取りが記録されていたのだ。
 いつもの「もうちょっとFCの人数増やした方が良いかな」「どうやったら人数増えるかな」というリーダーの問いに対し、彼女ははっきりとこう答えていた。
「今のままでは絶対にメンバーは増えない。メンバーを増やしたければFCを班ごとに分け、ノルマを課して、責任感を持たせるべきだ」
「FCの方針を変え、最後までやり遂げる覚悟があれば、賛同者を中心にメンバーは増える」
 
 背筋を寒いものが走った。これだ。これがリーダーの豹変の理由だ。
 しかも彼女は「自分はバトル班に所属したい」とも付け加えていた。唯一ノルマの与えられていない班だ。

 謎は解けた。私は他のメンバーに見せるために動画のスクリーンショットを──撮ろうとして、やめた。リーダーが最初に言い出した時ならともかく、もはや手遅れだ。新方針に賛同しない人は抜けていった。今更事を荒立てても意味がない。

 割れた氷は元には戻らない。
 問題は彼らではない。私がどうするかだ。
 FCを抜けるのみで済ませるか、その上でサーバを移動するか。あるいはさらに……。

 既にリーダーは、残されたメンバーに対して「FCを抜けた理由は抜けた本人に直接確認してください。自分は知ったことではない」と煽っていた。FCを抜けても、サーバを移動しても、あるいは名前を変えても、キャラIDが変わらない限りは特定が可能だ。別の場所で新しいコミュニティを見つけても、ロドストの日記に突撃をかけられたら仲間に迷惑が掛かってしまう。
 あの気弱そうだったFCリーダーがここまでするか、と思いながらも、内心驚きはなかった。FF11でも、DQXでも、FCリーダーが豹変するなんてよくある話だ。

 そして、悲しいかな、色々なゲームで沢山の出会いと別れを経験した私は、FF14を遊ぶにあたって心がけていたことがあった。
 一つは「惜しくなるようなものは持たない」こと。エンドコンテンツで沢山のフレンドの協力を得て取ったようなアイテムを持っていると、いざという時それが惜しくなる。取り直せないようなものは、そもそも取らない。
 そして「できるだけ借りは作らない」こと。だから私は、FCテレポ割引も、FCチェストの中身にも、一度も手をつけなかった。
 どちらも、最後は同じ理由に行き着く。オンラインゲームのいいところは、やり直せることだ。やり直すための障害になるようなものは作らない。

 オンラインゲームとは、フレンドとの関わりだ。良きにつけ悪しきにつけ。
 それを実感した出来事だった。

追記

 ──お察しのとおり、上のエントリは今日書いたものではない。実際の出来事が起きた直後に、特定されないよう考慮しつつ書いたものである。実のところ、このエントリをかなり長いスパンのタイマーで公開設定にしていたのをすっかり忘れていた。書いた当時はショックが大きかったので、お見苦しい点もあると思うがご容赦いただきたい。
 誤解のないよう付け加えておくが、私はこの後、新天地でのエオルゼア生活を思いのほか満喫している。「ゴールデンウィークFF14を遊ぼう」というキャンペーンに水を差すつもりは毛頭ない。たまたまこの時の私の運と巡りあわせが悪かっただけだ。

 なお、今回思い出してロードストーンの当該FCを覗いてみたが、予想通り消えてなくなっており、メンバーはバラバラになっていた。さもありなん。