ネットフリックスに加入して全話ぶっ通しで観た。プリペイドカードで加入できることを知ったのは大きかった。もちろん、加入して即退会した(退会しても課金月分は見れる)。忘れると困るので──プリペイドだから、忘れたところで勝手に停止するだけだろうけど。
感想は全面的にネタバレになるので折り畳むが、未視聴者の方に伝えることがあるとすれば──
この作品は、6話までを劇場版第1章、7話以降を劇場版第2章だと思って、ぶっ続けで見た方が良い。
(以下、ラストまで含む完全なネタバレありの感想なので、未視聴者の方は読むのをお勧めしません)
「サイバーパンク」と「ボーイ・ミーツ・ガール」が共存できることを証明した稀有な名作。
デイヴィッド
バッドエンドなら星二つ減と言いたいところだけど、ぶっちゃけ2話の時点でもうどう考えてもデイヴィッドは死ぬとしか思えなかった。むしろこの展開で生き延びる方がおかしい。
2077のVと構図が被るように意図的に計算されており、ちょうどVとジャッキーの最後のビズまでの時間を長回しにしたような物語になっている。サンディビスタンを入れて運命が変わったデイヴィッド、レリックを入れて運命が変わったV。
ボーイ・ミーツ・ガールの主人公らしく純真で、母親の死のことを最後まで引きずり、無関係の人物を殺したことを後悔し続ける、他人の夢のために生きるサイバーパンクっぽくない人物。でありながら、入れれば死ぬ、使えば死ぬと言われるサイバーウェアを使い続ける破滅的な性格ゆえ、サイバーパンク作品の主人公たり得ているし、その死に傾斜する性向はVにも似ている。
どう考えてもナイトシティの異物である彼は、ドロップアウトするか伝説になるしかなかったのだろう。
ルーシー
PVを見ている段階では主人公を誘う破滅的な年上女性かと思いきや、むしろそれは登場時だけで、後はひたすらデイヴィッドの手綱を引こうとし続ける(そして失敗する)ヒロイン。月に行くのが夢だったけど本当はそれはどうでもよくて、デイヴィッドに生きていて欲しかったルーシーと、自分のことがひたすらどうでもよくて、ルーシーに夢を叶えてほしかったデイヴィッドのすれ違いが悲しい。
かといってより良い選択肢があったかというと、アラサカに狙われていることを明かせばデイヴィッドはルーシーを守るために自分を犠牲にするだろうし、ルーシーにはそれを止められない。つまりこの二人がこういう形で出会ってしまった以上、結末はこれしかなかった。
2話の月のシーン、そしてそれに呼応する最後の月のシーン。両方で流れる「i really want to stay at your house」が泣ける。
レベッカ
観終わった人たちがレベッカレベッカというのが不思議だったが、自分も観終わってみて気持ちが分かった。トリガーハッピーでロリキャラというキャッチーな部分は外見だけ。実際は自分が愛しているデイヴィッドがルーシーに惚れていることを知っていて、その恋を応援するという精神年齢は高めのメチャメチャいい女。
【配信開始まであと11日⚡️】
— TRIGGER Inc. (@trigger_inc) September 3, 2022
『サイバーパンク: エッジランナーズ』9月13日Netflix独占配信!!
イラスト: 土肥志文(作画監督)
福岡トリガーの特攻隊長。メカもキャラもイケる。4話のレベッカのガンアクションの原画も印象的。今回の絵もガチ。素晴らしい!
コメント:今石洋之(監督)#Edgerunners pic.twitter.com/SSOn2ZUqPc
裏切りだのサイバーサイコシスによる発狂だのが多発したエッジランナーズの中で、ただ一人出会いから最期までデイヴィッドに寄り添い、その夢の成就のために自分の命さえ賭けた。彼女の最期も、物語上はあれしかないことはわかる。わかるけどアダムスマッシャーは許せん……!
メイン&ドリオ
ストリートに身を投じたデイヴィッドを導く先輩役。──それがまさかあんなに早く退場するとは! サイバーサイコシスの恐ろしさを知らしめるという意味で、これも物語上必須のプロットとはいえ、最後にデイヴィッドを送り出す役目とかではなく、半ばにして物語から消える。これこそサイバーパンク。
キーウィ
メインとドリオ亡き後、デイヴィッドを助ける役……と思ったら裏切り。それもまたサイバーパンク。とはいえ、彼女の裏切りはさほど理不尽感はなかった。そもそも仲間に隠れて裏で(デイヴィッドを守るためとはいえ)コーポを暗殺しまくっていたのはルーシーの方だし。まぁ、次に述べるキャラが酷すぎたというのはあるが……。
ファラデー
最初PVで見た時は圧の強いコーポかと思ったら、実はフィクサーだったという。本作品で一番酷い役だった人物ではないだろうか。ゲーム本編のデクスター・デショーンといい、2077のスタッフはフィクサーが嫌いなのかと思うくらい扱いが酷い(笑)。
しかも、デクスター・デショーンはやったことは酷いが、それはあくまでも不測の事態が起きたためであり、フィクサーとしてはそれほどアホなことはしていないのに対し、ファラデーは(N◎VA脳的な視点で見ると)完全にアホそのもの。
ミリテクに渡すためにアラサカから盗んだものを、ミリテクが希望の金額で買ってくれなかったからってアラサカに売りに行く馬鹿がどこにいるんだよ。しかもアラサカから刺客が送られているとわかっている状況で。せめてカン・タオか何かに売りに行けよ……。
キーウィが裏切る前も後も見せ場があったのに対し、同じ裏切り者でも本作品中徹頭徹尾見せ場がなく、むしろ哀れを誘うほどだった。
ピラル
無意味に死んだように見えて、実は彼の死こそが物語の転換点になるという意味で重要なキャラ。エッジランナーズ全員が横に並んで歩く、PVにもあるあのシーン。そのシーンの直後に彼は殺される。サイバーパンクの物語に安息というものはないのだというのを、最初に視聴者に思い知らせる役割を果たす。彼の死からメインとドリオの死までが、この作品の前半のクライマックスだ。それゆえに、この作品は「劇場版2本分」と見るのが正しいと私は思っている。
ファルコ
後半から登場したキャラで、ファラデー同様PVには名前がないが、ピラルと別の意味で重要な役割を果たすキャラ。彼とルーシーだけが、今作後生き残るキャラだ。つまり、ゲーム本編でデイヴィッドの名前を語り継いだのはファルコである。また、エッジランナーズのメンバーでゲームにも登場するのは彼だけだ。つまり、2077とアニメ「エッジランナーズ」を繋ぐ架け橋である。
以上、登場人物を中心に感想を述べてきたが、本作の凄いところは「不要な登場人物、不要なプロット」が見当たらないことだ。作中に登場するものにはすべて意味がある。これだけの要素を盛り込んだ作品としては決して長い作品ではないが、短い時間に必要な要素がギッチギチに詰め込まれており、破綻がない。
ただ、レベッカとキーウィの掘り下げがもっと見たかったのと、これがもうちょっと早ければ、もう少しゲーム版が盛り上がったのではないかというプレイヤーとしての不満、そしてネットフリックス独占だけはやめてほしかったというプラットフォームへの不満以外は、言いたいことは(あんまり)ない。素晴らしい作品である。
余談。本作の科白でちょっと気になったのが「サイバーパンク」という用語の使い方である。Wikipediaにもあるが、サイバーパンクというのはジャンル名、あるいは思想、ムーブメントを指すのが一般的だ。私もそう思っていた。
ところが、PVにもあるとおり、ルーシーはデイヴィッドに向かって「あなた、本当にサイバーパンクになりたいの?」と聞く。これは私からすると「あなた、サイエンスフィクションになりたいの?」「あなた、スペースオペラになりたいの?」と聞いているのと同義で、意味が通じない。チーム名である「エッジランナー」の方が「あなた、エッジランナー(エッジを走る者)になりたいの?」という風に意味が通じたと思う。