ブレイドオブアルカナのシナリオの話(2)

 昨日のエントリに引き続き、ブレイドオブアルカナのシナリオについての話である。私がブレイドオブアルカナのシナリオを作る時に気をつけているのは、「導入」と「殺戮者」の2つである。今日はまず導入についてだ。
 ロールアンドロールに掲載されたシナリオをご覧になった方はお分かりだろうが、ブレイドオブアルカナでは、PC一人一人に対して別々の導入が用意される。ソードワールドのように「最初から全員がパーティーを組んでいます」「冒険者ギルドから依頼が来ます」というオープニングではない。もしソードワールドなどのゲームを目当てにこの雑誌を買い、たまたまブレイドオブアルカナに興味があって、シナリオを作ろうと思った人がいたとしたら、どうすればいいのか戸惑うかもしれない。



 個人的にはブレイドオブアルカナのアルカナ(キャラクタークラス)には、導入を作りやすいアルカナと作りづらいアルカナがあると思っている。私の主観になるが、ランキング形式で紹介していこう。
 まず注意すべき点として、この「導入の作りやすいアルカナ」というのは、単にこのアルカナを持っているというだけではなく、そのアルカナを「現在」「過去」「未来」のどこに配置しているか、という問題も大きく関わってくる。基本的に、導入に使うアルカナは、現在に配置されたアルカナであると考えるのが最も自然な展開だ。
 例えば、アダマス(騎士)のPCがいたとして、それを未来に配置していたら、PCは「将来騎士になりたいと思っているが、今はまだ騎士ではない」という可能性がある。そうなると、今はまだ騎士ではないPCに、領主が領内の問題を何とかさせよう依頼は持ち出せない、という話になる。
 「過去」はまだ工夫の余地がある。今はもう騎士ではない「元・騎士」に対して、他に話を持っていく宛てがないので、あえて話を持ってきたというのも導入になるだろう。ただ、未来はなかなか自然な展開にするのが難しい。未来に配置しているアルカナを導入に使いたいなら、PCの設定上、それをどのように位置づけているのかを確認してからでないと導入として使うのは厳しいかもしれない。
 以下はここまでの記述を前提にご覧いただきたい。

1.レクス(賞金稼ぎ)

 ブレイドオブアルカナで最も導入が作りやすいのは、このアルカナだろう。もしあなたが「冒険者ギルドから依頼が来る」という形式の他のゲームに慣れているのであれば、パーティ内で中心となる「PC1」の「現在」のアルカナに「レクス」を指定するとよい。ルールブックに記載があるが、冒険──叙事詩の舞台となるハイデルランドには、ヴァルチャーズネスト(禿鷹の巣)という賞金稼ぎのギルドがある。NPC一覧の「リトルローズ」シャロンというNPCが賞金稼ぎギルドの連絡員だ。
 ブレイドオブアルカナで導入に迷ったのであれば、殺戮者に賞金をかけて、シャロンを通じてその情報をPC1に提供し「この賞金首をなんとかして欲しい」という導入が一番単純だ。レクスのPCは自らシナリオに積極的に関与する理由付けが得られる。殺戮者がどのような立場であってもこの導入を使用することは可能である。
 また、殺戮者が誰なのかを導入時点で明らかにしたくないのであれば「この地域に殺戮者がいる可能性が高い」という情報を与えてPC1を向かわせ、展開フェイズのいずれかの段階で賞金がかかったことにしても良いし、事件の解決そのものに賞金をかけても良いだろう。一番導入に使いやすいアルカナだ。また、レクスは情報収集を得意とするアルカナであるところも使いやすい。
 ただし、だからといってPC全員にレクスのアルカナを持たせることはあまりお勧めしない。戦闘能力が高いと言えない点、特に奇跡が使いづらい点が理由である。

2.エフェクトス(元力使い)

 元素の力を使う魔法使い、というアルカナの説明だけを見ると、決して導入が作りやすいようには見えないのだが、世界設定上、エフェクトスを束ねる「セプテントリオン」と呼ばれる組織があり、リーダーであるリヒャルト・シュヴァルツを中心に、聖痕者が関わる事件に積極的に介入してくるという方針を持っている。
 従って、セプテントリオンに所属している、あるいはリヒャルト・シュヴァルツの知り合いであるという設定なら、シナリオの導入を用意することは容易である。もし、エフェクトスでありながら「自分はセプテントリオンに所属しておらず、リヒャルト・シュヴァルツとも知り合いではない」というPCを作成した場合、導入しやすさはファンタスマやオービスと同列にまで下がる。また、このアルカナも奇跡は非常に使いづらい。

3.アダマス(騎士)、4.マーテル(聖職者)

 いずれも自分の主君、あるいは教会から、何らかのトラブルが発生していることを報告され、対処するように依頼されるという導入を用意できる。組織に所属するという設定のアルカナは他にもあるが、この2つは基本的に困っている人間がいると助けざるを得ないという立ち位置にあるので、他の組織所属のアルカナよりも頭一つ導入を用意しやすい。
 また、これより上位に挙げたアルカナと違い、奇跡がどちらも非常に強力である。情報源としての所属組織的な意味も含めて、いずれかのPCには是非とも欲しいアルカナだ。

5.アクシス(魔術師)、6.ルナ(暗殺者)

 アクシスは天慧院と呼ばれる、いわゆるアクシスが集う学校と関係性が深い(他のゲームの用語で言えば賢者の学院だ)。ルナの方はブルーダーシャフトと呼ばれる盗賊ギルド、秘密結社に所属していることが多い。
 こちらも組織に所属しているという意味ではアダマスやマーテルに位置付けは似ているが、組織の性質上、積極的に聖痕者同士の事件に関与していくということはなく、基本的に「関係者が事件に関与している」か、あるいはアクシスであれば「何らかの魔術的な道具や事象が関わっている」場合に限られるだろう。そして、その解決とシナリオの目的がマッチしているかどうかというのも問題になる。ただブレカナの場合には、基本的に殺戮者を倒せば全ては丸く収まることが多い。

7.ステラ(英雄の介添え人)

 7番目に書いたが、このアルカナは非常に特殊なアルカナだ。条件に合致すれば1番目、あるいは2番目に導入しやすいアルカナでもある。
 ステラは英雄の傍らにいる人、英雄を補佐する人というアルカナである。グラディウスが剣士、アダマスが騎士、というような明確な社会的立場や能力を持っていない。これは裏を返せば、PC1が英雄である以上、PC1を補佐する立場という理由で導入を作ることができるということだ。例えば先に挙げたレクス(賞金稼ぎ)がPC1であるなら、このレクスを助けたい、という理由で事件に関わるその親友とか、軍師役・補佐役という立場が考えられる。
 ただし、ステラ自身は特定の組織に所属することを意味しないし、ステラ自身をPC1に持ってきて当事者にするのであれば、ちょっと設定を捻る必要がある。一般的には、ステラというアルカナを「現在」に選んだ時点で「自分が主人公になりたい」というよりは「誰かを助けるPCをやりたい」という希望がある場合が多いはずだ。

8.アルドール(戦士)、9.グラディウス(剣士)、10.イグニス(射手)、11.ディアボルス(魔剣使い)

 トーキョーN◎VAでもしばしば見かける、いわゆる「殺し系」と呼ばれる導入が使えるアルカナである。「誰々を倒して欲しい」「暗殺して欲しい」「排除してほしい」という依頼を受けるタイプだ(武道家は「求道者」なので、ちょっとそぐわない)。
 フリーランスの人間が一番入りやすいのはこの導入だろう。また奇跡も戦闘系なので、能力的には非常に使いやすい。それだけに、放っておくとPCがこの枠だらけになる、ということもままある。
 また、添付シナリオにもあった「聖グラウディシア騎士団」枠というのはこれの変形タイプで、その名に反し、アルカナを問わずその筋のプロフェッショナルであれば誰でも所属でき、何らかの事件が起これば元締めのマレーネジーベルの依頼を受けて介入するという、比較的導入しやすい枠でもある。

12.フルキフェル(デミヒューマン

 フルキフェル自体は「デミヒューマンであること」を表すアルカナで、それ自体を導入として使うというのは、エルフの共同体、あるいはウルフェン人狼)の共同体といったものから依頼が来る、それら自体が関わってくるシナリオということになるだろう。
 反対に、それらが関わらないシナリオでフルキフェルであることを理由に依頼が来るということは考えづらい。ある種の共同体に所属しているPCとは言えるかもしれないが、アダマスやルナのように組織から依頼が来るアルカナとは扱いが異なる(後で出てくるエルスやフィニスに近い位置づけ)。

13.コロナ(支配者)

 騎士とは逆に、領地を治める領主という立場が多いアルカナだ。導入は「自分の領地で何かがあった」あるいは「知人の領地で何かがあった」になることが多いだろう。誰かに依頼されるわけではなく自発的に動かざるを得ない(もちろん、封建領主である以上「さらに上の領主」から命じられることもあるだろうが)分だけ、アダマスよりは導入の難易度は上がる。

14.ウェントス(旅人)

 旅人なので「シナリオの舞台がどこになっても登場して不自然ではない」という意味では使いやすいが、それ以外の点では次に紹介するファンタスマ等と位置づけは同じである。

15.ファンタスマ(幻術師)、16.デクストラ(錬金術師)、17.オービス(古代魔法使い)、18.アクア(武道家

 これらは上記のエフェクトスやマーテル、アクシスと違い、基本的にフリーランスの人間が多いという特徴がある。これらを束ねる組織が、背景設定上存在しないからだ。つまり組織からの依頼というものがない。もし彼らに依頼型の導入を用意しようとするのであれば、因縁を活用する形になるだろう。つまり、知り合いからの依頼という形だ。逆に知り合いがいないと、巻き込まれ型など別の導入の方が自然になる。

19.クレアータ(作られた者)、20.エルス(動物などの相棒を持つ者)、21.フィニス(不死なるもの)

 この3つへの導入は、上に挙げた4つのアルカナよりもさらに厳しい。これらは職業とか能力ではなく特徴なので、このアルカナを持つ者たちがどのような社会的立場にあるかというのは、この3つのアルカナからでは判断しづらい。そういった人間にわざわざ依頼を持ってくるというのも、なかなか考えるのが難しい。
 正直にいってしまうと、この3つ、そしてこの後に挙げるアングルスについては、当該アルカナが未来や過去などに配置されていて「こういう特性を持っているが、社会的立場は別にある」というPCでないと、通常の導入には相当頭を捻る必要がある。例えば、クレアータなら自分の創造主からの依頼、エルスなら相棒がトラブルに巻き込まれる、などだ。

22.アングルス(無垢なるもの)

 そして、私が22のアルカナの中で一番導入が難しいと思っているのがアングルスだ。ブレカナで最も導入を用意しづらいPCは、アングルス・レクタス、つまり現在・過去・未来全てがアングルスというPCだと思っている。
 アングルスは無垢なもの、純粋なものというものを表すアルカナだ。社会的な立場が存在するとすれば、幼児だとか世間知らずの王子や姫君だとか、そういった存在が該当するが、そういった人間に依頼を持ってくる人間がいるかどうか、という話になる。
 クレアータ、エルス、フィニスは「あえて依頼を持っていく相手ではない」というレベルだが、アングルスについては傍から見るとむしろ「依頼を持ってくるのが忌避される」べき存在だ。これも未来や過去などに配置して、現在の社会的立場は別にあるとしてもらわないと、依頼型の導入を行うのは難しい。



 上の評価を読んで「サンプルキャラクターと設定が違う」という意見もあるかもしれないが、これには理由がある。掲載シナリオの記事でも書いたが、サンプルキャラクターには背景情報が付属している。よってその背景情報をもとに導入を作成することができるのだ。上に挙げたアルカナについても、事前にPCの情報の確認ができているのであれば、導入しやすさは必ずしもこの限りではない。PC1が「現在」でアングルスのアルカナを選び「世間知らずのお姫様がPC2の爺やと組んで世直し珍道中をする」というのも、事前にPCの設定がわかっていればシナリオに組み込むことが可能だからだ。
 以前、シナリオをPCに対して当て書きするという話をしたことがあるが「シナリオ作成よりも前にPCの情報が分かっているかどうか」というのは非常に大きな要素である。このランキングは、基本的には「事前にPCの情報を知り得ておらず、サンプルキャラクターも使っておらず、従って当該アルカナを選んだ時の最大公約数的な導入を用意せざるを得なくなった場合」という条件になるのでその点にはご留意いただきたい。