先日、ショップにブレイド・オブ・アルカナのシャドウ・オブ・アビスを買いに行った時、隣に新作のTRPGが並んでいた。こちらである。
ドメインからいって、恐らくこちらが公式ホームページなのだと思うが、このゲームについて一言物申したいことがある。
このルールブックの正式名称は、日本語で「指輪物語TRPG5E 基本ルールブック」となっている。このルールブックを最初に見た時に思ったのは「これは、かつてホビージャパンから発売されていた『指輪物語ロールプレイング(Middle Earth RolePlayng 通称MERP)』の第5版なのか?」ということだった。
MERPは、ホビージャパンの翻訳版は一度しか出たことはない。とはいえ、海外のゲームの版が飛び飛びで翻訳されるのは、日本の環境では珍しいことではない。トンネルズ&トロールズなどがまさにそうだ。
しかし、裏表紙を見るとちょっと違ったことが書かれている。「指輪物語TRPG 5Eは、世界で一番人気のあるファンタジーTRPGシステムである『第5版RPG』のプレイヤーたちを(中略)指輪物語の世界へ誘うために作られた」とある。
これを文字通りに受け取ると、MERPとは別に、世界で一番人気のあるファンタジーTRPGシステムである「第5版RPG」なるものが存在し、これはそのルールに基づいて指輪物語の設定を再現したものだ、と読める。しかし、私はこの「第5版RPG」という名前を全く知らなかった。そこで調べてみたところ、この「第5版RPG」というのは、「ダンジョンズアンドドラゴンズの第5版」のことだったらしい。*1
かつてダンジョンズ&ドラゴンズの第3版から、D20システムと呼ばれる汎用ルールが生まれ、そこからワースブレイドやメタルヘッドのサプリメントが出版されるなど、多くのゲームに派生していった。同様に、ダンジョンズアンドドラゴンズ第5版のルールから、WOC社がオープンソースとしている範囲のみを抜き出して汎用ルールとし、指輪物語の世界設定と組み合わせたのが、この指輪物語TRPG5Eだ、ということらしい。D&Dの翻訳権を失ったホビージャパンは、かつてのノウハウを生かすような形で、可能な範囲でサポートを展開していたというのをここで初めて知り、少なからず安堵した。
しかし、自分の無知を棚に上げるようで恐縮だが、この「第5版RPG」という言葉のみから「ダンジョンズ&ドラゴンズと共通システムであることを察する」というのは、事情に相当通じた人じゃないと難しいのではないだろうか。同ページによれば、この「第5版RPG」という名前に「ダンジョンズ&ドラゴンズ」という名前が入っていないのは、版元の許可が得られなかったから、ということらしい。とはいえ、許可が取れないのは仕方のないことだし、この名前に「ダンジョンズアンドドラゴンズ」という言葉を入れろと言いたいわけではない。
このゲームの骨格となるコアルールの部分は、ホビージャパンの別のページでは「フィフスエディションRPG」と呼ばれている。日本語というのは面白いもので、「フィフスエディションRPG」というカタカナの名前になっていれば、1つの外来語として、これは新しいTRPGなのだろう、と……つまり、実態に近い形で捉えることができる。しかし、日本語に翻訳されて「第5版RPG」という名前になってしまうと「4版まではいったいどこに行ったんだ?」という疑問を覚えてしまうし、そこから先はD&Dとの関係性を知っていないと謎が解けない。だから、新作として売るのであれば、フィフスエディションRPGはカタカナのままで用語を統一化した方が良いのでは……というのが一つ。
そしてもう一つ。このフィフスエディションRPGのシリーズで、カードゲームを元にした「ラストクロニクル5E」というゲームがあるようだ。
こちらはイラストなども日本人向けっぽく、それなりに受け入れられそうな気がするのだが、ルールブックはダウンロード販売専用だ。もしこれがD&Dの派生ゲームと知っていて、しかも店頭に並んでいれば、かつてD20シリーズを買い漁っていた身としては絶対に買ったのだが、実際には今回事情を調べるまで、存在すら知り得なかった。書籍版では出せない事情があったのかもしれないが、顧客へのチャンネルを一つ失っていることになる。そこは残念だ。
*1:ちなみに、私はダンジョンズ&ドラゴンズの最新版のルールブックを持ってはいるが、例えば英語版の展開について逐一追うほど熱心なフォロワーではない。