ロール&ロール最新号(長文注意)

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  申し訳ないけど、今回はかなり辛口だ。「りゅうたま」大好き! 「りゅうたま」の悪口は見たくない! というひとはここで回れ右してほしい。










 今回、ロールアンドロールに掲載されたシナリオを読んで、近年稀に見るショックを受けた。このライターさんはこれが最後みたいだけど、今までの連載はそれなりに面白かっただけに、よりによって最後にこれ!? という印象だ。

 このシナリオ、ネタバレも何もないんだけど、概略は次のようなもの。

 ある城にアシュレイという少女が住んでいる。彼女は魔女ギデナの呪いを受けており、満月の夜が来ると死ぬ運命にある。しかし、彼女の恋人の魔法使いロヴォが城に魔法をかけ、時間の流れを止めている。以来彼女は何百年もの間、城で一人で暮らしている。
 城を訪れたPCのところに、アシュレイを守る「影」(ロヴォの残した使い魔のようなもの)が現れ「自分に残された魔力はもう少なく、このままだとアシュレイが死んでしまう。彼女を助ける方法を探すため、アシュレイを説得して城を出て、街に連れて行ってほしい」と頼まれる…というシナリオだ。
 ここまでの流れには、特に問題はない。問題はこの後である。

 このシナリオには、アシュレイを助ける方法に関する具体的な記述がない。「探しても見つからない」のではなく「探そうが探すまいがアシュレイは助かりません」とだけ書かれている。ここで「え?」と思うGMは多いはずだ。そう、実はどうやってもアシュレイは助からない。
 なぜか。その理由がすごい。
 このシナリオのGMは黒竜アルトラという竜人である。この竜人には、アーティファクトと呼ばれるアイテムを使って、シナリオ中に登場するNPCを殺す能力がある。この竜人の能力は通常のゲームデータを越えた能力であり、プレイヤー(PCではない)には覆すことができない。

 その上で、シナリオにはこう書かれている。


 GMはここで、黒竜アルトラが「短剣」を持っていることを改めて告知し、生存の可能性を潰すという形で効果を発揮するということを宣言してください。


 つまり、プレイヤーがどんなにあがこうが、どんなに努力しようが、アシュレイを助ける素晴らしい方法を思いつこうが、それらを全て覆してGMはアシュレイを殺す、だから何をやっても無駄だ、ということだ。私は「TRPGにバッドエンドは駄目」派なのだが(理由は今度またゆっくりと)、これはそもそもそういう次元の問題ですらないと言えるだろう。

 ルール上、PCは竜人に一切手が出せないので、アルトラがアシュレイを殺すのを止める方法は皆無である。アーティファクト、もしくはもう一つの竜人の能力である「ブレス」を使いすぎると竜人は死ぬのだが、このシナリオにおいてはアルトラはアシュレイを殺すために使用する「短剣」のアーティファクト以外、一度ブレスを使う機会だけしかないので死ぬ可能性はない。ちなみこのブレスというのは、アシュレイを城の外に連れ出そうとする説得の判定結果を、クリティカルの成功に変更する「フォーチュン」というブレスである。
 
 シナリオの展開としては、まず、アシュレイを外に連れ出そうとすると、アシュレイは反対する。どうせ死ぬべき運命なら、このまま城の魔力と運命を共にする、というのだ。しかし、外に連れ出すためにアシュレイを説得しようという行為は前述のとおりアルトラのブレスによって100%成功してしまうため、結局アシュレイは城の外に連れ出される羽目になる。
 アシュレイを外に連れ出すと、最初は助からないと諦めていた彼女は、歳相応の17歳の女の子に戻り、もしかしたら助かるんじゃないかという希望を抱き始める。
 しかし彼女は絶対に死ぬ。運命だからではない。竜人が殺すからだ。
 中途半端な希望は絶望よりもたちが悪いというが、まさにそれだ。そしてこの展開では、PCが介入する意味がない。PCの意思が反映される余地もない。
 
 他にも問題点はある。

 一つは、このシナリオではPC同士が対立する可能性があるのに、解決する方法が書かれていないという点だ。対立というのはもちろん、アシュレイを城の外に連れだすか否か、である。連れ出せば確実に死ぬとわかっている以上、連れ出すのに反対するPCが出てくることは容易に想像できる。しかしそれを解決する手段はなく、またシナリオからドロップアウトするのを止める手段は用意していないと書かれているので、対立するPCはゲームへの参加を途中で放棄するという形で対立を解決するしかない(シナリオでは連れ出す側のフォローしかされないため)。

 二つ目は、このシナリオにはクライマックスがないという点だ。盛り上がるところがないのだ。戦闘はもちろんない。冒頭にそれらしきものがあるのだが、戦闘ルールには持ち込まないとわざわざ断ってある。戦闘さえあれば、性に合わないシナリオでも楽しめる点を無理やり見つけることができなくもないのだが。また、アシュレイの説得にもPCの意志が入る余地はない(どんな形で説得しようが、竜人が成功を強制してしまうため)。このシナリオはどこで盛り上がればいいのだろう?
 まさか、最後にアシュレイが「ワルツを踊っていただけませんか?」というシーンだろうか?

 三つ目はまさにその最後のシーンだ。アシュレイが最後に自分の死を覚悟し、PCにワルツを踊ってもらえないかと提案するシーンがある。満月の下でPCとアシュレイがワルツを踊るシーンは確かに絵にはなるだろう。
 しかし、当然シナリオライターの方はご存知と思うが、ワルツは二人で踊るダンスである。このシナリオに参加している、ワルツの相手に指名されなかったPCはどうしていればいいのだろう? 指をくわえて見ていればいいのか? 茶々を入れればいいのか? それとも登場判定もシーンプレイヤー制もないこのゲームでは、メインのPC以外は活躍する必要などないということなのか? もしかして順番に全員と踊るのだろうか? そんなの絵にならないことこの上ないが。

 四つ目は、このシナリオの雰囲気がこれまでのりゅうたまの連載などで形作られてきた作品の雰囲気とあまりにもかけ離れているという点だ。「空から降ってくる槍を特産品にしている町」からやってきたPCや、「ユキドラゴンが吐く雪で欠き氷が一年中食べられる常夏の街」出身のPCがこのシナリオに登場したらどうすればいいのだろう? そういうシナリオしか知らないプレイヤーがセッションに参加したら何を思うだろうか。

 五つ目は、このシナリオの当事者がアシュレイ以外皆死んでいるという点だ。そのため、NPCに会って話を聞くことで妥協点を探ることができない(NPCの妥協点ではない。アルトラは恐らくあらゆる妥協を許さないだろうから。プレイヤーが心理的に妥協点を探すという意味である)。
 例えば、ロヴォが出てきて「アシュレイには生きていてほしいと思っていたが、こんなことになるとは思わなかった」と独白すれば、アシュレイが死ぬのは仕方ないと受け入れられるかもしれない。逆に呪いをかけたギデナが出てきてPCにも呪いをかけようとするなどのシーンがあれば、プレイヤーの感情はギデナに向けられ、アルトラへの感情も薄れる余地があるだろう(そこで戦闘の一つもあれば盛り上がるかもしれない)。
 しかし当事者が皆死んでいるため、感情の向けどころがアルトラしかない。ますますアルトラの理不尽にやるせなさを覚えるというわけだ。

 最後に、このシナリオが、このゲーム最大の構造的欠陥をまさに浮き彫りにするシナリオになっているという点だ。
 これがブレイドオブアルカナなら、アシュレイの死という逃れられない悲劇があっても、それを招いた殺戮者「竜人アルトラ」を倒すことでプレイヤーはカタルシスを得られる。
 これがもし深淵なら、恐らくはこの事態を招いたであろう魔族を、たとえ倒すことがシナリオ中でできなかったとしても、憎悪を新たにして次のシナリオに繋げることができる。あるいはエンディングで魔族に挑みかかって散るというのも一つの結末だ。
 ところがりゅうたまの場合、このシナリオの状況は明らかに竜人によって意図的に引き起こされたものであるにも関わらず、竜人がシナリオに登場することもなくPCもそれを知る術がない。よって感情をぶつける先がなく、カタルシスも得ようがない。
 GMとしては、ゲーム前に「今回のシナリオの竜人は黒の竜人である」と提示することで、プレイヤーに対して「今回のシナリオは悲劇的な陰鬱なものである」というコンセンサスを得たいという意図があるのだが、竜人がなまじ人格を与えられた存在であることが、明らかにかえって逆効果を及ぼしている。

 GMはTRPGにおけるストーリーテラーであり、ジャッジだ。裁判で言えば裁判官と判事を兼任しているようなものだ。その絶大な権限を与えられたGMが、竜人というキャラクターを通してセッションに参加する以上、セッションを成功させるためには絶対の条件がある。
 それは、GMとプレイヤーが協力し、プレイヤーの望む形で竜人の力を振るうこと。
 GMが強権を振り回し、プレイヤーの意に反して竜人のブレスを使えば竜人が勝つ。当たり前だ。ジャッジはGMなのだから。しかしそれでセッションが成功することは絶対にない。

 このシナリオの場合はどうか。プレイヤーたちは最初、アシュレイを救いたいと思うはずだ。なぜならそれが最初の依頼だからだ。これが、最初の依頼内容が「アシュレイは本当は死んでいるはずなのにそのことに気付いていない、どうか安らかに眠らせてやってくれ」という依頼だったならプレイヤーの印象も変わる。このシナリオでは、依頼人からの依頼と竜人の思惑が真っ向から対立している。依頼に正当性がないならいわゆる「不誠実な依頼人」シナリオのパターンになるが、ここでは逆。GM、つまり竜人の思惑に正当性がないのだ。
 プレイヤーから見ると、アルトラの行動はPCへの悪意に満ちている。アルトラの目的は「時の流れはとめられないこと」「人は必ず死ぬものだと旅人に教えること」とシナリオには書かれているのだが、これを聞いて納得するプレイヤーは果たしているだろうか? それならなぜ、城の外にアシュレイを出すことなく、そのまま死なせてやらなかったのか?(最初の段階では、アシュレイは自分の死を受け入れている点に注意)
 シナリオの説明には「傲慢にして狂える竜人」ともある。これも禁じ手だろう。竜人が狂気に陥っていると言われることは「竜人の動機も行動原理も、シナリオの先の展開もブレスを使う法則も、まったく何の脈絡もありません」と断言されるに等しい。
 やりとりにすればこんな感じだ。


GM 「皆さんは町につきましたが、アシュレイを助ける方法はありません。助けようとしてもアルトラがアシュレイを殺しますので」
PC達「ええっ!?」
GM 「アルトラの目的は『時の流れはとめられないこと』『人は必ず死ぬものだと旅人の心に刻み付けること』なのです」
PC1「じゃあ、どうしてアシュレイを連れ出そうと説得した時アルトラはブレスを使ったんですか? 連れ出しても連れ出さなくても死ぬんでしょう?」
GM 「理由はありません。アルトラは狂ってますので」
PC2「じゃあ、どうやったら竜人を止められますか?」
GM 「止められません。アルトラは狂ってますので」
PC達「……」


 竜人とPCが対立することは、りゅうたまでは一番やってはいけないことだ。PCはどうやっても竜人には勝てない。するとプレイヤーはどうするか。やる気をなくし、セッションを放り出す。もしそうなったとしても、この展開ではやむをえない。
 このシナリオは、途中で降りることを引き止めないと書いてある。もしかしてこれは、テストプレイの段階でシナリオを放り出したプレイヤーがいたからではないだろうか? そんな気すらしてくる。シナリオを降りたキャラクターのためにあらかじめもう一本のシナリオを用意しておくといいと書かれているが、そんなことをするぐらいなら最初からそのもう一本をやったほうがいいに決まっている。


 たった一つだけ、救いがある。


 それは、セッションが失敗しても決してGMのせいにはならないということだ。もしGMのせいにするプレイヤーがいたら、無言でロール&ロールを見せればよい。納得してもらえるはずだ。