新しき悪夢

 土日、管理職と自分のみという悪夢のような環境で缶詰勤務だった代償として、やっと休みが取れた。何をするかは決めていた──あるものを探しに行くのだ。
 といっても、それの正式な発売日は明日である。秋葉原のゲームショップに行ったが現物はまだどこにもなかった。店頭にないこと自体は至極当然のことだが、ふと思いついた。もしかしたら、書店なら早売りで入荷しているところがあるかもしれない、と。
 これほどの熱意が自分の中にまだ残っていたのが我ながら驚きだったが、巡った書店で遂に目的のものを手に入れた。 
 


 これだ。冒頭の休日出勤と違い、こちらは待ち望んでいた「悪夢」である。

トーキョー・ナイトメアとは

 リプレイやシナリオのネタバレは一切するつもりはないし、折り畳まずに書く。
 「トーキョー・ナイトメアとはどんなゲームか」と聞かれたら、ぶっちゃけ、一言で答えられる。サイバーパンクという用語を(ほぼ)すべて削除したトーキョーNOVAである」と。
 先輩の事前予想がほとんど当たっていて空恐ろしいくらいだったのだが、トーキョー・ナイトメアとは「サイバーパンクを知らず、過去のNOVAを一切知らなくても遊べるNOVA」である。何しろルール部分はNOVAとほぼ変わらないのだ。特技はざっとしか見ておらず、対照表を作った訳でもないが、見覚えのある特技がいくつもある。神業や判定システムに至っては、確認できる限りほとんど変更がない。
 ある場所で「トーキョーNOVAの廉価版か?」という発言も見たが、それもあながち外れてはいない。これは2000円以下で入手できるNOVAだとも言えるからだ。しかし、世界観は変更されており、舞台は「東京湾埋立地」ではなく「東京」である。とはいえ、舞台がNOVAではなくなったのに、千早重工が出てきた時には驚いたし、音羽が芸能プロダクションになっていたのには思わず吹き出したが。

変わるスタイル

 先ほど、「ほぼ」すべて削除したと書いたのは、アイテム欄に「サイバーウェア」が残っているからだ。しかし、それはサイバーパンクを演出するアイテムとしてではなく、「われわれの世界では“想像の産物”だと思われているものがすべて実在する(P264)」世界観の延長線上として、つまりバサラやマヤカシと似た位置付けとして存在するのみであり、アイテムとしても1ページに収まる程度しかない。
 では、舞台がサイバーパンクからほぼ現代に変わったことで、最も影響を受けるのは(マイナスナンバーを除いた)22のスタイルのうちどれか。ニューロ(ハッカー)──では、もちろん、ない。現実世界でもハッカーは存在するどころか、日に日にその存在感は増しつつある。
 恐らく一番変わったのはハイランダーである。ハイランダーは、元々の設定では「地上に降りてきた軌道コロニーの出身者」であるが、さすがにこの世界観では、それは無理だったのだろう。変更されて、王族や貴族、財閥、あるいは秘密結社の一員などを表すようになっている。
 逆にいえば──その他21枚のスタイルは、ほぼ変わっていない。

もう一つの「トーキョー」

 つまり「トーキョーナイトメア」は、東京湾の「向こう側」か「こちら側」かという違いしかない、もう一つのNOVAである。ただし、その「違い」とは、25年を経て敷居の高くなった(ならざるを得なかった)NOVAの敷居を思いっきり押し下げたものだ。NOVAに初めて触れる人のためのNOVAである。
 また、こうも言える。私は「オルタナティヴ・サイト」の評価で「NOVAというゲームがサイバーパンクに対して出した一つの答え」と書いた。「トーキョー・ナイトメア」は「サイバーパンク色を可能な限り薄くする」という方法を選んだ「もう一つの答え」である、と。
 もし、私がコンベンションで「初心者を相手にどちらかのNOVAをやれ」と言われたら、私は間違いなくナイトメアを選ぶだろう。明らかに分かりやすくなっているからだ。

 しかし、である。もしカジュアルプレイで顔見知りを相手にNOVAをやるとなったなら……私は恐らく、旧来のNOVAを選ぶだろう。25年の蓄積が惜しいから、ではない。皮肉な話だが、今私にとってホットなスタイルは、アヤカシも、コモンも、エトランゼも、そのことごとくがマイナスナンバーなのだ。よって(少なくとも本ルールの範囲においては)変わっていないからこそ、あえてナイトメアを選ぶ理由がないのである。