まずは、昨日のエントリの補足から書いていこう。
最後の部分で「世界設定に明確な刑罰が規定されていると、シーフ(盗賊)の立場が危うくなる」と書いた。これは、いわゆるTRPGの基本パーティーである「戦士・魔法使い・僧侶・盗賊」という編成の中で、盗賊だけが明確に、単独で法に触れる行動を取っている可能性が高いからだ。
もし仮にシナリオの進行上、悪人を討伐したりすることで、PCが傷害罪、あるいは殺人罪にあたる罪を犯すことがあったとしても、パーティ全員で戦ったのであれば、それはパーティーメンバー全員の連帯責任であろう。しかし、例えばある人物からピックポケット(スリ)の能力を使ってシナリオアイテムを盗んだり、オープンロックを使って人の家の鍵を開けたりすれば、それはパーティメンバー全員というより、スキルを使った盗賊1人が犯罪を犯したことになる。刑罰をあえて明確にしないことで、この辺りの扱いを曖昧にできるというメリットも考えられる。
さて、ここからが今日の本題だ。先日紹介した「東京ダンジョン」。かつてダンジョンズアンドドラゴンズでシーフ1人が持っていた能力を、突破と探知、解除の3種類に分け、パーティメンバー3人に分散するルールになっているが、前回「探知の能力は、解除の能力の上位互換に近くなってしまうのでは」と書いた。
その後も色々考えたのだが、キャラクター設定の整合性を考えても「罠の構造に詳しく、解除するのが得意な人間が、罠を発見するのは得意ではない」というのはイメージしづらい。私自身がCD&Dに親しんだ古い人間だからというのもあるし、シーフの活躍場面を分散したいという目的はよくわかるけれど、クライムウォールにあたる「突破」の能力はともかく、罠に関する能力は同じキャラクターが持っていないとしっくりこない。
この点について、私が評価しているのが──意外かもしれないが──ソードワールド2.5だ。しつこいようだが、交渉を判定で解決できないのはいまだに納得できないものの、PCの探索に関する能力について、スカウトとレンジャー、セージの3種類に分け、盗賊の能力を細分化するのではなく、活躍する場面によって差別化するというのは良いアイディアだ。ダンジョンが得意なスカウト、野外が得意なレンジャー、シティアドベンチャーが得意なセージという感じである。
もちろん、この3種類の探索能力に平等に活躍シーンを保証するためには、キャンペーンにおいて、GMがダンジョンと都市と野外で均等にシナリオを作成する、という労力を払う必要がある。例えば、野外で活躍するためにレンジャーのキャラクターを作ったのに、キャンペーン中1回も野外を舞台とするシナリオがなかったら、キャラクターの強みを活かせないことになるからだ。とはいえ、探索能力についてキャラクターの設定に結びついた個性付けができるというのはさすがという感じだ。
なお、私はアリアンロッドについても、セカンドエディションよりファーストエディションのシーフの方が、ルール的な処理はシンプルだったと思っている。ファーストエディションではシーフの自動習得スキルがファインドトラップになっており、全てのシーフが罠を発見する能力を持っていたが、これがセカンドエディションになると奇襲が得意な戦闘系の職業という位置づけになった。
しかし私は、全てのキャラクターに全てのシーンで活躍シーンを用意するというのは少々無理があると思っている。シーフは戦闘では戦士ほど活躍できない代わりに、罠解除などの探索能力に長けている、というので十分ではないかと思う。そしてD&Dであれば、ある程度レベルが上がると魔法使いの魔法で鍵を開けたり、壁登りの能力の代わりに魔法で空を飛んだりして、シーフが失敗した時のフォローもできる。発動率が100%である代わりに有限のリソースを使用する魔法使いと、使用回数に制限がない代わりに100%成功するとは限らないシーフ。そういう棲み分けだ。
余談
これは余談だが、私はソードワールドについてあれこれ厳しいことを書くことがあるが、高く評価している点も3つある。
1つが上に書いた、探索系の能力をスカウトとレンジャーとセージという形で差別化している点だ。欲をいえば、全てのPCにこれらのうち1つを習得することをルール上必須として欲しいが、それは置いておく。
2つ目が、ラクシアライフとヴァグランツの存在によって「冒険者以外の生き方」というのをプレイスタイルとして提示したことだ。ラクシアライフについて私がどれほど高い評価をしているか、というのは前にエントリで書いたことがあるので、今回は省略する。
そして最後の1点。非常に大きな評価点が「コンスタントにサプリメントを出し続けていること」である。プレイヤーにとって一番嬉しいのはこの点だろう。
以前私のブログでは、関係者が「ソードワールドは日本で一番売れたRPG」と語るのに対して(自称)と付記していた。これには理由がある。コンシューマゲームの売り上げなどと違い、TRPG関連の出版物の販売数は、客観的な第三者機関から発表されたことがない。従って関係者が「ソードワールドは日本一売れたRPGだ」と主張しても、裏付けるものがないので、自称としか評しようがなかったのだ。
しかし「日本で一番サプリメントが充実しているTRPG」という表現を使うなら、これは客観的に見て、ソードワールド2.0~2.5に軍配が上がるのは間違いない。今のソードワールドのサプリメントの数は、かつての新和時代のクラシックダンジョンズアンドドラゴンズはもちろんのこと、ホビージャパン時代のD&D3rdの数も超えて、今や日本で過去に発売されたTRPGでは最大級の出版点数を誇っている。1.0時代にはなしえなかった、戦闘スタイルの個性化も、一般技能の充実化も、古代魔法王国で遊ぶためのサプリメントの発売も果たした。関係者は、むしろこちらに胸を張るべきではないのかな、と個人的には思ったりもするのだ。