TRPGは知識自慢ではない

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 このトピック主は、ここで募集した知識を「どのように」自分のシナリオ執筆に生かすかを明記しておらず、また「フィクションが全て現実に即している必要はない」とも書いている。よって以下の記事は、単純にこのまとめ記事を読んだ感想である。


 まず、ここに集まった数々の知識をセッション中に披歴するのは、それがGMによるものであれ、プレイヤーによるものであれ、やり方を考えないとTRPGのセッションにマイナスに働くことがある。続くツリーの書き込みが、悪い見本の典型のようなものだ。このようなやり取りが実際のセッションの場で交わされるのは想像したくない。
 TRPGのセッションは、参加者全員で物語を作る場だ。大事なのは知識を自慢することではなく、情報が共有され、物語の生成に寄与することだ。冒頭に書かれた条件で集まる知識は、明らかに一般的な知識ではない。それをシナリオ作成やロールプレイに活かすとなれば、GMとプレイヤー、あるいはプレイヤー間の情報の偏りは発生しやすくなる。


 例えば最初に挙げられた「刑事が、自分の親族が巻き込まれた事件を担当することはない」という知識について。これをGMだけが知っていると仮定した場合、「自分の親族が巻き込まれた事件を担当している刑事」のふりをした人間が登場する、なんていう展開が考えられるが、これを見抜くことができるのは、知識のあるプレイヤーだけだ。もし、プレイヤーの誰もこのことを知らない場合は、プレイヤーが自力で真相にたどり着くことはできない。また仮に、特定のプレイヤーだけがこの知識を持っていた場合は、そのプレイヤーのみセッションで活躍できる可能性が増える。
 もちろん、全てのセッションにおいて、全てのプレイヤーが持っている知識のみを使ってシナリオを作るということは絶対に不可能なので、ある程度の格差があるのは仕方のないことだ。しかし「限定的な人間だけが知り得る情報」を狙って活用すれば、それは情報格差を解消するのではなく、助長する方向に働く可能性が高い。

 また、立場が逆だった場合、つまりGM側がこの知識を持たず、プレイヤーだけが知っていた場合はどうなるか。「そんなこと現実世界ではあり得ないことだ」とプレイヤーが主張するのはセッションを停滞させる。当該セッションにおいてはGMが述べることが正しい。しかし、そんな主張をしなかった場合は、最初の命題にあるように「プレイヤーとしてはモヤモヤする」だろう。
 もちろん、プレイヤーが知らなくてもPCが判定を行うことによって情報を得られるシナリオなら問題はないが、その場合は「まとめに挙げられた情報」と「GMがシナリオのために創作した情報」の間に差異がなくなる。「死体で指紋認証はできない」ことと「行きつけの酒場の親父の隠された過去」が同列の情報になるのだ。
 誤解のないように付け加えると、セッションのために様々な知識を学ぶこと自体に意味はある。例えば、プレイヤー全員が「グリフォンが馬を襲って食う」という知識を知っているのに、ゲームマスターだけが知らなかった場合、セッションでそういったシーンを描写することは不可能になる。


 ではどうすればよいのかというと、一番わかりやすいのは「演出に留める」ことだ。特定の知識を知っていることが特定のプレイヤーに有利にならないようにすればいい。要は、ヒーローズ・フィースト……D&Dの料理の話と同様、雰囲気付けのためだけの情報として扱うのだ。
 もっとも……それを守ったとしても「自分だけが知っていること」をセッション中に他プレイヤーに披歴しつつ、それが知識自慢と受け取られないようにするには、かなり気を使う必要があるとは思うが。もちろん、セッション中に学歴自慢をするなどは論の外として。