ツッコミどころのあるTRPG(その1)

 ちょっと前、どぐらさんのクソキャラ列伝を見漁っていた時、「これって、TRPGでも似たような記事が書けるんじゃないか?」と思ったことがある。とはいえ、私にはどぐらさんのようにユーモアの才能はないので、あそこまで人を楽しませる内容を書ける自信は全くないのだけれど……。それに「クソゲーTRPG列伝」という名前もあまり適切ではなさそうだ。
 「ツッコミどころのあるTRPG」ぐらいのタイトルが適切かと考えつつ、書こうとしたままお蔵入りにしていたものの、こちらを見て、書きかけの記事のことを思い出した。


togetter.com


 計算式がおかしくなるのは、GMやプレイヤーだけとは限らない。
 なお、以下のエントリについては完全に私の個人的な意見である。例によって辛口になるため、見たくない人のために一応折り畳んでおく。













 「ツッコミどころのあるTRPG」というタイトルで記事を書くのであれば、どうしても一番最初に取り上げたいと思っていたタイトルが、こちらである。



 パワープレイは、私のブログで過去に取り上げたことはほとんどないので、疑問に思った方もいるかもしれない。
 このゲームを取り上げたかった理由は、ツッコミどころのあるTRPGとしては──それこそデデデ大王ではないが──第一に、そのツッコミどころがシンプルで分かりやすいこと。
 第2に、それにもかかわらずそこがシステムの根幹に関わる部分であり、ゲーム全体に重大な影響をもたらしていること。
 そして最後に、そのツッコミどころについて、数学的に説明できるということ。この点は非常に珍しい。


 パワープレイに関して説明する前に、いつも使っている用語であるが、今回のエントリで使う用語について改めて定義しておこう。期待値、あるいは中央値のように、一般的に定義されている用語は説明を省く。


目標値・TRPGのセッションにおいて、プレイヤーにダイスを振らせた時、GMが判定の成功の基準として設ける値のこと。

達成値・提示された(あるいは提示されない)目標値に対して、プレイヤーがダイスを振り、結果的に成否を判定するために導き出される値のこと。一般的にはダイスで出た目に対して、以下に述べる修正値を加えた値が達成値となることが多い。

修正値・ダイスを振った値に対して、これをゲーム中で使う値にするために、プラスやマイナスの修正をかける値のこと。

xDn+y・TRPGのセッションにおけるダイスの振り方の表記方法。xはダイスをいくつ振るか、nは何面ダイスを振るか、yは上記の修正値を表す。


 次に、パワープレイというゲームの概略を説明しよう。このゲームは初心者向けを非常に強く意識したタイトルである。キャラクタークラスはたくさんあるが、スキルという概念はなく、全ての判定は能力値を用いた判定で決着がつく。GMとしては、プレイヤーキャラクターに行わせようとする行動がどの能力値に分類されるかさえ決めておけば、スキルの効果などを覚えなくても、判定を指示できる。
 特殊能力の類はほぼ魔法の形でまとめられており、前衛系の能力すら魔法として整理することで、個別のルール処理を覚える必要がない。当時、業界で一番メジャーだったソードワールドRPGは、完全版を出したり、味方への誤射ルールなど、複雑で取り扱いの難しいルールがどんどん追加されていた。そんな中、このパワープレイというゲームは、あくまでも初心者を念頭に置いた、単純で分かりやすいゲームを目指して作られていた(雑誌には「女性のみによるリプレイ」まで掲載されていた)。

一つでも1の目が出ると……

 そんなパワープレイというゲームのツッコミどころは、基本となる判定システムにある。
 このゲームの判定方法はシンプルだ。

 達成値=【能力値/10】D+【能力値/5】(端数切捨て)。

 つまり、能力値の10の位(端数切捨て)個のダイスを振り、能力値の1/5切り捨ての修正値を加算した値が達成値だ。能力値が17なら1D6+3、能力値が21なら2D6+4。これによって得られる値が達成値である。そして、振ったダイスのうち、1つでも1が出ていた場合、その判定は自動的失敗となる。
 この時点で疑問を感じた方は、数学的な勘が鋭い方ではないかと思う。そう、問題は最後の部分「振ったダイスのうち、1つでも1が出ていれば自動的失敗になる」という部分だ。ここがこのゲームの判定システムにとって重要なポイントとなる。このゲーム、能力値が上がれば上がるほど振ることのできるダイスが増えるが、そのうち1つでも1が出ていたら自動的失敗になる。ということは、ダイスを振る数が増えれば増えるほど、自動的失敗の可能性は増すということになる。
 これは意図的にデザインされたものである。このシステムの最大の特徴は「自動的失敗を避けるために、判定の際、プレイヤーがダイスの数を減らして判定することができる」という点にある。つまり、目標値と自分の能力値を比べ、自動的失敗の可能性を増やしてでもたくさんダイスを振るか、それとも自動的失敗のリスクを減らすためにダイスの数を減らすかという選択ができる。これがこのゲームの売りだった。

ダイスが1つ増えても期待値は……?

 これを読んで、どう思われるだろうか。判定においていくつダイスを振るかプレイヤーが決めるのであれば、プレイヤーは当然、その判定の期待値がどれくらいになるかを計算しようとするだろう。PCの命がかかっているような場合はなおさら、適当にダイスを振るプレイヤーは少ない。
 「自動的失敗は目標値がいくつであっても必ず失敗する」と考えると、その達成値は「ゼロ」である。そして「振ったダイスのうち、いずれか1つでも1が出ていた場合は、達成値をゼロとする」という前提で計算すると、2D6の期待値は5.56になる。3D6の期待値は6.94で、1.4しか違わない。ちなみに4D6の期待値は7.72で、ダイスが一つ増えた場合の差はさらに減る。
 自動的失敗というルールがなければ、ダイス1つにつき期待値は3.5上昇するが、このルールがあるために、レベルが上がって振れるダイスの数が変わっても、期待値の上昇はプラス1.5を下回る。しかし、これは出目を除算したり減算しているわけではなく、あくまでも確率分布によるものなので、直感的に掴みづらい。ここがこのルールの最大の問題点だ。なお、当時はスマホは存在せず、計算機をセッションに持ってくるというのは一般的ではなかったから、計算はすべて暗算で行われていた。認識を誤ってGMが目標値を設定すると、プレイヤーは判定で失敗を連発する羽目になる。
 さらに、GMにもプレイヤーにも扱いづらいのが、この判定システムだと「達成値が中央ではなく高い方に偏る」という点である。通常、6面ダイスというランダマイザを使うと、ダイスを振る数が増えれば増えるほどその値は中央に偏る。しかし、この自動的失敗のルールだと「1が出ると自動的失敗」になるため、自動的失敗を除くと達成値は高くなり、期待値はそれに引っ張られる。
 例えば、4D6の期待値は7.72だが、この時点で既に自動的失敗の可能性は50%を超えるので「中央値」を採るとゼロだ。2D6に比べ期待値は上がっているが、それは成功した場合の達成値が高いために過ぎず、失敗のリスクは高い(なお「重戦士」の初期筋力が36で、レベルアップで1D6の能力値上昇があるため、4D6はレベル2で到達し得る範囲である)。
 これを経験によって学んだ、あるいは計算によって導き出したプレイヤーは、次以降複数のダイスを振らないようになるかもしれない。しかし、そうなると今度は、ゲームの展開が単調になる。多くのゲームが2個以上のダイスを振ることを想定したシステムになっているのは、確率の偏りを利用するためであり、また判定結果としての数値のパターンを増やすためだ。ダイスを減らせば減らすほど、結果のバリエーションは少なくなる。

オプションルールはあるけれど

 この「1で自動的失敗が起きる」というルールを補正するために「6が出た場合、その数だけ1を相殺できる」というオプションルールが存在する。これによって、確かに達成値の平均は高くなるし、失敗の確率も減る(4D6の期待値は7.72から10.52まで増え、中央値もゼロでなくなる)。しかし、期待値と中央値に生じている偏りはさほど補正されない。1を打ち消せるのが最大値である6を振った時であるため、「成功時と失敗時の落差が大きい」点が変わらないのだ。


 そして実は、この判定システムの本質は、基本ルールブックではなく、後日別の著者が書いた「パワープレイでわかるRPG入門」という本に掲載されていたのである。


 成功チェックのために振ったダイスの中にひとつでも[1]の目があったら、達成値がいくつであろうとその行動は自動的に失敗となります。
 ダイスをたくさん振るほど危険が増すことがわかるでしょう。自動的失敗が起こる確率は、1Dでは17%ぐらいですが、2Dでは31%、3Dで42%、4Dでは52%もあるのです。
 こうしてみると、普段実用になるのは2Dくらいまででしょう。それ以上になるとギャンブル性がかなり高くなってきます。
 しかし、冒険をしていれば、いつかは「2Dでは絶対目標値に届かない成功チェック」を強いられる時が来ます。レベルが上がり成功チェックのダイス数の上限が増えるのは「いざというとき、底力をより強力に発揮できるようになる」と考えるのがいいようです。
(本書55ページより)


 これは、基本ルールブックの判定システムのところに太字で書いておくべきだろう……。それでも成功と失敗の落差の大きさについてはどうしようもないし、見せ場となる「いざという時」に、高確率で自動的失敗を強制される判定というのも扱いに困るが。
 本来は、これとオプションルールの「任意のダイスの目を6に変更できる」というヒーローポイントルールを併用するのが、想定されているバランスだったのではないか、とも思うのだが、そのこともルールブックに一言も書かれていない。

 ちなみに私自身の経験としては、普段あまりGMをしない友人がこのゲームでキャンペーンを主催したものの、2回目ですでにこの判定システムに戸惑い、セッションで頭を抱えていたのが印象に残っている。何より、判定のたびにプレイヤーがいくつのダイスを振るのが最適か計算し始めるため、セッションが非常に停滞する。以前、私がソードワールドで「判定のたびにプレイヤーが期待値を計算し始めるシステムは好きではない」と書いたのは、このシステムの体験があったからである。