You do it


 哀しき殺戮者とはいえ、殺戮者ならではの「悪徳」を演出しておかないと、セッション中困った事態が起こり得る。
 例えばブレカナでも有数の名シナリオと呼ばれる「輪廻の十字路」というシナリオがある。あらすじはこうだ。

 PCは、ハイデルランドのとある街を訪れる。ユーディットと呼ばれる聖女が赴任しているその町は、ささやかだが穏やかな日々を過ごす町だった。
 しかし巨竜ロヴレンドの来訪により、平和は終わりを告げる。竜の炎に飲み込まれ、人々は死に、町は廃墟となる。ユーディットの慟哭とともに……町は再び、PCが訪れる直前の様相を取り戻す。
 要するにこのシナリオは、ブレカナ版「ビューティフルドリーマー」なのだ。ロヴレンドが訪れ町が壊滅するまでの一週間を永遠に繰り返す、その永遠の日々を断ち切るのが聖痕者であるPCの役目というわけだ。

 この筋書きを見ると、殺戮者はロヴレンドのように見える。しかし、繰り返す日々を望んでいるのはロヴレンドではなくユーディットだ。ユーディットが殺戮者であることは調べていけばほどなく知れる。また、町の人々の「死にゆくべき運命」を自分の望みのために捻じ曲げるのは、聖職者であるユーディットには許されざる行為である。
 しかし、それでいてなお、ユーディットの行為が同情に値するのは確かだ。

 私はこのシナリオを2回プレイしている。うち1回は滞りなく終わったのだが、2回目のセッションでは予想しなかったことが起きた。プレイヤーの一人がユーディットの境遇に共感し、彼女と戦うことを頑として拒否したのだ。
 実のところ、このシナリオはちゃんと「プレイヤーがユーディットに肩入れしてしまい、戦うのを拒んだ時の対応」がちゃんと明記されている。

 殺戮者を倒すべきか否かで生じるPC間の対立が無用のものであるどうかは別として、少なくともPC間対立を起こすことで確実にプレイ時間は延びる。30分、下手をすると1時間以上延びる(実際、輪廻の十字路ではそうなった)。また、PC同士が対立することによるプレイヤーの心理的負担も大きい。
 例えば天羅WARやカオスフレアなどのように、PCが対立することが事前に設定上明らかとなっており、プレイヤー同士のコンセンサスが事前に得られているのであれば話は違う。TRPGにおいて“予期せぬ対立”が起こることは問題なのだ。


 もし、まど☆マギで話がこのまま進み、魔女化したさやかをまどかや杏子、ほむらが倒すという展開になるとしよう。そこには葛藤が、そして魔法少女同士の対立が生じるはずだ。TRPGとは違い、アニメやドラマならば、その対立、葛藤こそがドラマになり得るからだ。彼女たちの対立は、恐らくこのアニメの1話を見始めた頃の視聴者(私を含む)は想像だにしなかった予期せぬ対立だが、まど☆マギにおいてはそれらを含む意外性こそが、ここまで話題が沸騰した理由でもあるのだから。