これはなかなか面白かった

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 これはなかなか面白いまとめだった。この手のまとめによくある、知らない人の呟きに知ってる人が集まるのではなくて、そもそもそれなりに知ってる人が呟いて、それなりに知ってる人が補強していく感じ。私程度だとこれに付け足すほどの知識はないので、個人的な体験談を交えて書こうと思う。あと、コメントにあるとおり、メタ的な話と、物語内の整合性の話は分けることにする。

 まずはメタ的な話。ダンジョンに塔まで含まれるのであれば、それなりに古く印象が強いのは「指輪物語」のオルサンクに籠るサルマン。まさにイメージ通りの存在だ。とはいえ、トールキンが源流という訳でもなく、さらに遡って、例えばグリム童話ラプンツェルも「塔の上に姫を閉じ込める悪い魔法使い」という構図には当てはまる。



 ただ、この話が結構長く続いたのはツイ主が「塔」と「ダンジョン」を明確に分けたからだ。

 「ダンジョン」──地下迷宮の源流は、神話や童話まで遡ると、有名なのはやはりミノタウロスの元ネタ、ミノス島の迷宮だろう。なお、この迷宮は現代一般的なダンジョンのイメージとは逆で、中に閉じ込めた存在(ミノタウロス)が外に出てこないように築かれた迷宮であって、外から内部への侵入を阻むための迷宮ではない。一方、指輪物語にはモリアの坑道が登場するが、ここに住まうのはバルログ。魔法使いというイメージには少々遠い。
 私自身の体験だと、「ダンジョンに籠る悪の魔法使い」のイメージはTRPGに接するまで存在しなかった。TRPGとしては最初、クラシックダンジョンズアンドドラゴンズの赤箱の冒頭の冒険こそ、ダンジョンが舞台であり、そこに登場する悪役が魔法使いバーグルだった。つまりTRPGの原体験が「ダンジョンに籠る悪の魔法使い」だ。その後ウィザードリィワードナに出会い、火吹山に出会い、そのイメージが補強された。──私と同じ道を辿ったプレイヤーはどれほどいるのだろうか。当時としては決して珍しくはない気もするが……。



 日本におけるクラシックD&Dよりさらに前、グレイホークの初期キャンペーンにおいて、舞台がダンジョンとなった理由が、城のミニチュアが手狭だったからというのは初耳で、面白かった。もっとも、D&Dの主な舞台が城や塔ではなくダンジョンになった理由としては、他に二つほど考え付く。
 一つは、ダンジョンは城と違い、外観からフロア数を悟られないからだ。ミニチュアとフィギュアを使ったキャンペーンならなおさらだ。塔は外から見て3階建てのものを4階や5階に水増しするのは少々無理がある。しかしダンジョンなら無限に掘り進めて行ける。
 もう一つが、城や塔だと外壁に張り付いて途中をショートカットしようというプレイヤーを排除しづらいことだ。地下に築かれるダンジョンなら、その心配はない。


 次に、物語内での理由。これはCD&Dなら(基本的にはダンジョンというより塔の話だが)ルールブックに書かれているも同然なので単純な話。むしろ後発のRPGの方が理由付けが消えてしまっており、説明が困難になる。



 CD&Dで魔法使いが塔を建て、あるいはダンジョンを作ってそこに隠れ住む理由は、高レベルになったキャラクターがそれまで溜め込んだ自分の財産や研究成果を奪われないようにするためだ。「研究を邪魔されたくないから」というのは理由としては近いが、そうなると9レベル以下のマジックユーザーは何故研究のための塔を建てないのかという話になる。財産を隠し持つためとなれば、低レベル時に不要な理由は「隠すほどの財産を持っていないから」だろう。
 この時「持ち逃げの心配がない信頼度の高い銀行」が登場する便利なファンタジー世界だと、財産を隠し持つ必然性がなくなってしまう。銀行の信頼度が低かったり、そもそもそんなものがない世界であれば、何万枚もの金貨をどうやって保管するか? →堅牢な建造物を作ってそこに保管し、裏切りや持ち逃げの心配のない召喚モンスターに警備させる →ダンジョンの誕生、となる。戦士系領主キャラクターが城を建てるのも究極的には同じことだ。
 つまり、ここで冒険者として攻める側と守る側が逆転し、低レベル冒険者の「誰がダンジョンを作ったのか、何故ダンジョンに宝箱があるのか、何故モンスターが財宝を守っているのか」という疑問への答えが与えられる。これがCD&Dの構図であり、最もシンプルな「魔法使いがダンジョンにいる理由」だろう。そう──D&Dにおいては、ダンジョンに居を構えるのは、必ずしも「悪」の魔法使いだけとは限らないのだ。