蓬莱学園と八犬伝


 「蓬莱学園の冒険」がどういう作品かといわれると、「生徒数10万人の超巨大学園で生徒たちがお祭り騒ぎをする」というような説明がされることが多いと思う。
 しかし、それでは「蓬莱学園の最初の物語、1990年のプレイバイメイルのストーリーはどういうものだったか」というと──私はリアルタイムでは参加できなかったので、「蓬莱学園の復刻」という復刻資料を見て初めて知ったんだけど──この動画の中でも言われているように、メインの物語は「南総里見八犬伝」がモチーフになっている。だから石に秘められた文字が力を持つという「応石」についても、「仁義礼智忠信孝悌」の8つの文字を持つ応石が物語の鍵を握っている。
 その上で、これはこの動画を見るまで知らなかったのだが、90年に学園に転校してきた生徒たち、つまりプレイヤーキャラクターたちに対し、学園に向かう船の中で謎の声が「蓬莱学園には地球最後の秘宝が眠っている」語りかけてくるストーリーだったらしい。
 実は、これは私には二重に意外なことだった。というのも、スーパーファミコン版の蓬莱学園の冒険、あるいはソフトバンクから発売されていたTRPGの関連資料だと、転校してくる生徒たちは飛行機に乗って蓬莱学園へとやってくるという描写だったからだ。最初の生徒たちは学園に来るのに船を使っていたというのはちょっと意外だった。



 地球最後の秘宝そのものは南総里見八犬伝とは直接関係がなく、いくつかの異なる色調の物語が重層的に絡み合ってできていたのが当時の蓬莱学園の物語なのだけれども、これも動画の中で言われているとおり、後のTRPG版や小説版では応石の存在に触れられることがほとんどなかった。そのせいか、最初の物語は南総里見八犬伝がモチーフだったという事実も、あまりクローズアップされていなかったように思う。
 ただ、私自身前にトーキョーナイトメアについて書いた時にも触れたが、超自然的な存在、いわゆる物語にとって都合の良い嘘をつくのに応石という存在があれば非常に便利だったはずだと思うので、その存在を最初のネットゲームの段階で半ば封印してしまったのは、後の展開から見るとちょっと残念だった。蓬莱学園でシナリオを作る時、「まぁ、これも応石の力なので」と説明するのが一番楽だったと思うのだが、その言い訳が用意されなかった感じだ。
 とはいえ、生徒たちが手に入れた応石の力を、自らの手で封印する、というのがネットゲーム90の1つの大きなテーマだったようだから、やむを得ない展開だったのかもしれない。
 もしかしたら製作者たちも、蓬莱学園の先進性については理解していても、そのIPが後年これほど長く語られる存在になるとは思っていなかったのかもしれない。後々まで話を続けようと思ったなら、応石の存在があった方が他作品との差別化も図れるし、物語のギミックとしても明らかに便利だったはずだから。